19歳から31歳の秋くらいまでは、新宿2丁目に時折行っていた。お酒を飲むのは得意ではないし、知らない人と会うのも得意ではなかった頃、それでもそこでしか出会いがないわけだから選択はない。
一緒にそこで遊ぶ仲間らしき人たちができたのは25歳の頃。仕事にも少し慣れてきて、お金はないけれど、時間と元気だけはあった頃。
自分が好きなタイプ、というのが、かなり特定できるようになってきて、行くバーの種類も変わり、そしてそこがちゃんと居心地良く感じられる場所だったことにも気づくのがその頃だった。
そこは日本というより、アメリカのバーを模した空間だ。音楽もMTVのトップ40。80年代後半から90年にかけてはバブル全盛期で、マドンナやマイケル・ジャクソン、ブリティッシュ系のバンドがとにかく流行っていた。キラキラ輝くポップミュージックをそのバーで皆と眺めながら、ポップコーンをつまみにジントニックをちびちびと飲んでは、夜が朝になる時間まで話もせずに過ごしていた。
今ふとフラッシュバックのように頭に浮かんだのは、当時好きだった「Pet Shop BoysのBeing Boring」の映像だ。一世を風靡した写真家、ビデオグラファーのBruce Weberによる作品で、全編モノクローム。デカダンスなイメージと淡々とした歌、センチメンタルな旋律が時代感を捉えて大ヒットした。
バーでは主にビデオの冒頭のシーンのおかげで嬌声が沸き起こったっけ。あの頃はYouTubeなどないから、好きな時にいつでも検索して見ることなどできなかったけれど、今こうやって見て聴いても、僕にとっては全然古くなっていない新鮮なイメージのままでいてくれたのは嬉しい驚きだ。
あの頃と今とではどの位、あの街は変わっているのだろうと興味があった。プライドパレードが定例化したり、LGBTなどという言葉が日本でもメディアに登場するようになり、Openly Gayの政治家まで登場するようになり、企業や役所までが「平等」に向けて対策セミナーを開いたりする時代なのだから、きっと明るく、昼間から堂々とカフェやレストランがいっぱいあって、「開いた」街になっているのかな、と期待していた。
だが、そうでもないようだった。
僕が行ったのは11月の終わり。とても寒い週で、時差が8時間も先に進んでいる(実際には16時間遅れている)僕には眠い目をこすりながらの夜遊びだったのだけれど、期待した明るさも、変化も、開かれた空気も、未来の予感もない街だった。相変わらずバーの街だし、唯一希望感に思えたサードスペース的な皆が集まって語り合える場所も、市役所だか保健所だかがスポンサーしたもので、すぐに閉まる予定なんだと聞いて残念だった。もちろん僕が行ったのはわずか数日。そんな時間ですべてが見えるわけでもない。
このネットやソーシャルの時代。情報さえもっともっと右から左、左から右へと流れ続ければ、きっともっと目に見える変化は起こると信じている。どうなるときっと楽しい、というビジョンは、前例がないとなかなか見えたりしない。だから僕はアメリカでも最も有名なゲイタウンの側に引っ越してきた。ウエストハリウッド。
ブログを通じて、自分が見たこの20年間のアメリカを「前例」として伝えていけたら嬉しいし、もっと日本のLGBTコミュニティと対話していきたいとワクワクしながら願っている。僕がライフワーク的に取り組んでいきたいことのひとつなんだ。