外国人のアメリカでの就職はますます困難に。今年はついに3人に1人の確率

アメリカで働きたいという人は、情報の流通範囲が広がるにつれ、そして日本での就労状況が厳しくなるにつれ、増えている気がする。あるいは、単に問い合わせがカンタンにできるようになったので、人事の最終責任者まですぐに到達するからそう見えるだけなのかもしれないが、日本から問い合わせてくる人たちのほとんどが知らないのが、働くために必要なビザのことだ。

一般に取る資格は得やすいH1Bビザ

ビザにはいくつか種類があるが、普通に大学を出て、会社で働いてきた人たちにとっての選択となると、ほぼH1Bという種類に限られてしまう。これは「専門職」に与えられるもので、そのためにまずはどんな専門性をその人が身につけているかが問われるのだ。

専門性とは何か。

それは主に高等教育のこと。つまり「4年制の大学で」どんな専門分野について学んだか、ということである。高校だけでも駄目だし、短大でも駄目。最低線が4年制の大学だ。

僕らの頃は、と周りを一緒にしてはいけないが、大学でそれほどまじめに勉強をしていた人たちはそれほどいなかったように記憶している。どの授業が楽に単位が取れるか、出席を取らないか、レポートが楽か。そんな情報ばかりを得意気に交換していた。今、思うと、なんとももったいない話だが、当時はWe didn’t know any betterで、人生にたいした希望も目的なく、モラトリアムとか気取りながら、憂鬱をアクセサリー代わりにしていたようなものだった。

だから後にアメリカのビザのことを初めに学んだ時、すでに10年間の職歴があった自分が、その職歴は関係なくして一気に大学の学位にまで遡って問われていくなんてことに心底、驚いた。あれを「専門分野の習得」と呼ぶのか、と。

日本では就職時に専門知識など要求されたりしない。少なくとも文系の流れではされない。一般教養がしっかりしていれば、ニュースさえ見て読んで時事情報が入っていれば、たいてい大丈夫。かえって専門知識などあると邪魔くらいに思われたりする。真っ白なキャンバスを自分色に染めるのが日本の企業の好きなことだからだ。

アメリカの考え方はまるで違う。大学は高等教育の場であり、専門分野で働くための準備をしっかりとする場所。本来の専門学校に近い考え方をしている。就労ビザを取るときには、最終学歴の専攻が職場で課される職務とがっちり結びついていないと受け入れてはもらえない。しかもそれがなぜ外国人のコイツでないといかんのかね、ということを、切々と訴えないとならない。とても創造性を要求されるプロセスだ。

ネットの時代に「知らない」は悲しい

残念なのは、すでにアメリカにいて、将来残って働きたいと願う留学生でさえそれを知る人が少ないことだ。僕の頃はインターネットもなく、国立図書館まで行って片っ端からアメリカのビザに関する本を調べたんだ。

今は検索窓にアメリカ就労ビザ、と入れれば、23万5千ものサイトがノミネートされて出てくる。こんな時代に、なぜ自分で調べないんだろう…。それだけで仕事の能力をも疑ってしまったりするものなのに。

(今、自分がすごくオッサン臭い説教じみた口調になっているのを感じているので、ここで止めます。)

今年は3分の2が抽選で足切り

H1Bの枠は毎年、6万5千と決まっている。プラス2万の枠が、大学院卒以上に別途与えられている。昨年の応募は、受付開始から1週間で12万4千が殺到して打ち切られた。これだけ多いと、まずは無作為の「抽選」で足切りされる。厳しい審査の前に、まず有無を言わせぬ足切りだ。

今年はさらに厳しい。同じ一週間に集まった応募数は、なんと17万2500。またしても抽選会。今度は倍率がほぼ3倍だ。

僕はビザに関してはそれなりに運が良くて、これまでの13年間ほどの社長生活の中で、応募した社員が取れなかったという経験がない。周りの人たちにサポートしていただいたこともとても大きい。腕の良い弁護士さんの力によるところもとても大きい。でも、元はと言えば、先に弁護士さんと相談して、「この人は取れそうか?」と聞いてOKをもらわない限り雇わない、という徹底したポリシーにもよっている。

大学を卒業すると12カ月のトレーニングビザがもらえる。インターンビザを使えば、日本からでも18カ月働けるビザがもらえる。そしてたいていの場合、それを使って就労を希望してくる人は、そのままアメリカに残ることを期待している。ならば、その人たちは、もっと学歴とマッチした職種を最初からめざさないとならない。もし最初からビザ取得の可能性がないのならば、それは互いに虚しい期間となってしまうのだ。

リーマン・ショックで景気が冷え込んだ数年間は、こんなことはなかったが、ITを中心に元気を取り戻してきている今、雇用も活性化しているようだ。良いことなんだろうが、ビザを取得して就労したいと希望している人には、そして優秀な人材を外国から採用したいと考えている企業にとっては、まったくもって厳しい状況だ。