ハワイでジョギングを始めたので、走る人たちとすれ違う時は、必ず目を合わせて「Hi!」「Good morning!」って挨拶するのが礼儀だと思い込んでいました。少なくともニッコリしたり、顎で合図を送って、互いの存在を認識するのがアメリカ人の礼儀なのだと信じていました。
しかしロサンゼルスに行ったら、誰もそんなことしない。まずもって目を合わせない。郷に入っては郷に従え。When in Rome, do as the Romans do。 変なやつ、と思われるのも嫌なので、次第に挨拶などしなくなり、目を合わせることもしなくなりました。
そうか、あれはハワイだけの美しい風習なのかと、人の温もりを懐かしく思い出してホームシック気味になっている時期もありました。でも別にロサンゼルスに住んでいる人々が冷たく自分本位だったり、不安に怯えていたりするからってわけではなく、単に人との距離の置き方とか、日頃の慣習が違うだけだと気づいてからは、とくに気にもしなくなりました。
先日のポートランドでは、住宅地に宿泊して住人の中で過ごしたので、地元の方々の生活に浸ることができました。朝、バス停に向かう時に犬と散歩をしている人やジョガーたちとすれ違いますが、だいたいかすかに目を合わせてGood morningと声をかけあいます。人との距離がロサンゼルスよりは近い印象。そして穏やか。ベタベタなフレンドリーさというよりも、爽やかで良い感じでした。
ここから本題。
イベントに行くバスの中でこんなことがありました。
僕がバスに乗り込んだ時、すでに前の方に参加者全員に配られたバックパックを持っている人がひとりいました。首からは入場パスとなる名札を下げて。
ああ、彼も行くんだな、と思いつつ、たまたま目も合わなかったこともあり、普通に空いている席を探して反対側の2-3列後ろに座りました。
その次のバスストップで乗ってきた男性がいました。彼は別にイベントのバッグも名札も下げてなかったのですが、乗ってくるなり、先ほど僕が見つけた参加者を目ざとく見つけて「Hey、君もWDSに行くんだね! 僕は○○、よろしく!」と嬉しそうに声をかけて、握手しながら満面の笑みで2人で語り始めたのです。
Like-mind(似たような志向をしている人たち)同士が集まるイベント、というのが売りだし、多分、実際そうなので、近所の人同士、偶然バスの中で出会ったら嬉しいものなんでしょうね。彼らはその後、降りるまでの20分間、ずーっと話し込んでいました。
途中、もうひとり同じバックパックを抱えた人が入ってきて、やはり目ざとく見つけて、「Hi! 君らもWDSの参加者なんだね。よろしく!」と嬉しそうに2人と握手。しかしその後は、スマホでずっと何かやってて、別に一緒に話すことはしませんでした。それもまたアリなんですね。後ろの2人は結構夢中で話してて、後の彼のことはちょろっと挨拶した程度で気にも留めてない感じ。でもまあ、彼らの世界では均衡が取れて成り立っているようでした。
それが上の写真の状態。(いつかブログのネタに、と思って、外の風景を取る振りして隠し撮りしていた、わけじゃなくて、ちょうど橋を渡る時の景色がキレイで撮ったのですが、逆光でお話にならなかっただけです。)
さて、降りるべき場所が来て、皆、降りました。すると、実はもうひとり、女性の参加者が乗っていたのがわかりました。同じバッグを持っていたから。そして、なんと4人が挨拶しあって、一緒に和気あいあいと会場まで歩いて行くんですよねえ。へえ~とか思いつつ、そこに加わることなんて考えもしない自分(苦笑)。さっさと先を歩いて行きました。
僕はなんというのでしょう、そういうの、かなり苦手かもしれません。ひと目でどこへ行くか分かっちゃうバッグなど絶対に持たないし、ましてや入館証みたいな名札を首から下げてバスに乗るなんて、考えもしません。100歩譲ってものすごく開放的な気分でいたとしても、目を合わせて「Hi」と小声で言うかな、ってところでしょうね。クチパクかアゴで挨拶するのがせいぜいかな。
アメリカ生活20年とは言っても、生まれ育ちは日本。ちょっと人と距離を置いちゃったりするのが粋な(?)東京圏の人なので、自分都合でガンガン人に話しかけていいのかなあ、と躊躇してしまいます。隣に座ったりしたら、それはまた別ですよ。そこは話さない方がアメリカの礼儀に反することは分かるので、力を振り絞って(苦笑)、頑張って話します。
それにしても、向こうが話したいと思ってなかったらどうするのでしょう。そもそも、日本にはそんなことをする「習慣」「慣習」がないですよね。あ、あの人も同じイベントに行くんだぁって分かったら声かけちゃうとか、しませんよね。かけられた方が恥ずかしい思いしないかなと気を使いますよね?使いませんか?
エレベーターに乗っても、日本の人は絶対にしゃべらない。でもアメリカの方々は、沈黙は毒とでも言うように、必ず話しかけてきます。そういうテンポラリーのおつきあい会話は慣れてるのですけど、バスでは隣でもなかったら声はかけないなあ。他にもたくさん席が空いてるのに、どっかりと前に座って後ろ向きながら夢中で話す人がいたら、「迷惑」というカテゴリに入れますよね、日本なら。
でもね、アメリカでは「話したいから話す」が正解なんですよね。それで全然オーケー。そういう意味では、KYの方がはるかに生きやすい社会だと思います。
これが、WDSという催しの成せる技なのか、それともただ単に彼ら(アメリカ人)がそういうカルチャーの人たちなのか。何年アメリカにいても、慣れないものは慣れません。面白いとは思いつつ、やっぱり自分はいつまでたっても「ガイジンだなあ」と、勝手に距離を感じて寂しくなったりもするのでした。