僕らは皆、赤ん坊の時代を通り抜けてきました。寝ていることしかできない時期を過ごし、はいはいができるようになり、そしていつしか二足歩行ができるようになっていきます。
はじめて立ち上がった時はバランスを取るのも覚束なくて、何度も尻餅をついたり、前のめりに倒れたりして泣きまくります。でも、そんなよちよち歩きを繰り返していると、いつしかスタスタと速度を早めて歩けるようになったり、走ったりできるようになるのです。
まるで赤ん坊が一歩ずつ足を踏み出して、やがて歩けるようになることと重ねあわせて、人のゆっくりした、しかし確かな成長の足取りのことを、英語では「ベイビー・ステップス」と呼びます。
ゆっくり一歩ずつ確実に「ベイビー・ステップ法」
赤ん坊の頃、僕らは誰から強制されたわけでもないのに、傷つくことも失敗も恐れず、一歩一歩、足を前に踏み出して、自ら歩き始める勇気を持っていました。少しずつ歩けるようになるのが嬉しくて、ニコニコ笑いながら、何度でも挑戦を繰り返しました。誰から褒められるでもなく、ご褒美をもらえるでもなく。ただひたすら、自分がしたいからという理由で、未体験ゾーンへとワクワクしながら保を進めていったのです。
でもその後の人生で、僕らは傷つくことを恐れるようになります。傷心や羞恥心、自信の喪失など、あらゆる「痛み」の記憶が刻み込まれ、未知の世界へ足を踏み出すのを恐れるようになっていきます。
行きたい場所があるのに、足がすくんで動けない…。
そんな時、僕らが思い出すべきは赤ちゃんのベイビー・ステップスです。赤ちゃんは本能的に傷つかない術を知っているかのように、歩き始めても大怪我をしたりはしないものです。身体で最も柔らかいお尻で着地をして衝撃を和らげたり、まだふわふわの膝や肘や手の平で身体を支えて、重い頭を地面にぶつけないようにちゃんと調整します。傷つかないギリギリの範囲の中で、着実に足を進めているんですね。
僕らも、一気に進もうとすると足がすくむなら、まずはちょっとずつ、恐怖心が芽生えない程度に分割した小さなステップを着実に踏む、という方法で前進することもできるはずです。
例えば、計画を立てること。例えばリサーチをすること。例えば人に聞いて回ること。そういう準備も、長い目で見れば絶対に必要なステップのひとつのはず。
ちょっと転んだところで、大怪我をしない程度の小さな歩みでも、立ち止まらなければ前進していきます。その内に目標をひとつ、ふたつとクリアして、自信が伴ってきたら、歩みの速度や歩幅を変えていけば良いのです。
いきなり空から飛び降りるスカイダイビング法
あるいは逆に、恐怖心を克服する荒療治としては、スカイダイビングのようにいきなり空から飛び降りてしまうという方法もあるでしょう。
皆さんは、スカイダイビングをしたことはありますか? 僕は2001年、ハワイのメディアの編集長をしていた当時、広告主の記事を作る関係で、タンデム・ダイビングというものをしなくてはならなくなりました。
もちろん頭では興味があるのですが、ドアもない小型飛行機に乗せられて、ぐんぐんと大空に舞い上がり、いざ飛び降りるとなった時には、恐怖心がマックス状態。そんなところまで行って、やらない、という選択はないのですが、あったとしたら絶対にできないだろうな、と思います。
その時は、タンデムという方式のダイビングで、初心者がベテランとハーネスでつながって2人一体になって飛ぶスタイルでした。一般に観光地で行っているのは、これです。
怖気づいて足が動かない僕のことなどお構いなしに、僕の後ろにぴったりとつながれたザックというインストラクターが、「OK、レッツゴー!」といいながら、ドンっと背中に乗るようにして押してきたのです。
「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ~!」
いきなり空中に放り出された僕は、最初、大声を上げていましたが、数秒の内に後ろでコントロールしてくれている人がいる安心感が蘇り、落下する速度や空気の抵抗、空の青さや広さ、風の冷たさを全身で味わっていました。
だいぶ降りてパラシュートが無事に開いてからは、もう余裕しゃくしゃく。まるで観覧車に乗っているかのように恐怖心は消え、オアフ島ノース・ショアの素晴らしい海や山の風景に酔いしれていました。
降りた頃には、実際「もう一度飛びたい」と思っていたほど、かつて味わったことのないスリルと爽快感で身体が満たされていたのでした。
もちろん1人でやってみろ、と言われたら、また全然違うレベルの恐怖が沸き上がってくるのでしょうが、タンデムならやってもいいかなと思えます。同時に、ジャンプする瞬間に、また背中をドンッと押してくれる存在がいなかったら、きっと飛べないかもな、ということも分かっています。
背中を押す何かを自ら仕掛けるのがコツ
スカイダイビング方式を成功させるには、タンデムで後ろからドスンと飛行機の外に 押し出してくれる存在がいたように、何らかの強制力を持つ「力」が必要です。
逃げたくなる自分を逃げられないように追い込む力。
それは、例えば「人への宣言」。あるいは、人を巻き込んだチームプロジェクトにして、そのリーダー役を買って出てしまうこと。それは皆、お金があんまりかからないけれど、でも自分を前へと進ませる推進力となってくれるはずですね。
成功する人、何かを成し遂げる人たちは、意識的か無意識かは別として、何らか、このように「自分を追い込む」ことを「スキル」として身につけているようです。
SNSの時代。人への宣言は簡単です。オオカミ少年になりたくなければ、徹夜しても何しても、必死で空から飛び出そうとするはずです。
失敗などありえない。あるのはフィードバックのみ
自信がなくて恐怖心が芽生え、足がすくむ時。
小さなステップを踏み固めて、少しだけ力をつけてから徐々に望むベイビー・ステップ方式と、いきなり高い空から背中を押されて、やらざるを得ない状態にして飛び降りてしまうスカイダイビング方式と、時と場合に応じて使い分けるといいのかな、と思います。
いずれの場合にも大事なのは、失敗というものは存在しないと知ることです。例え一度で望む通りの結果が得られなかったとしても、それは、まずは最初のフィードバックが得られただけのこと。それはすなわち「成果」です。
まずは一歩、踏み出せた自分を、無条件にほめてあげましょう。そして、淡々と、二度目のチャレンジに向かえば良いのです。