ずっとずっと目の前の至近距離のことしか目に入らない、余裕のない状態で生きてきた自分が、やっと少しだけコミュニティのこととかを考えられるようになったのは、2007年くらいからです。今から約10年前、45歳の頃ですね。
会社もやっと安定して黒字が出せるようになり、自分自身の生活も、ギリギリの状態より若干良いくらいのところにこぎ着けることができて、ふと周りのことが見えやすくなっていったんでしょう。
折しも、LOHAS(ロハス)なんて言葉が日本でブームになったりして(元はアメリカですがアメリカ人は一般には誰も知りません)、ライフスタイルや健康意識を中心として、新しい価値観のもと、自分らしい人生を生きようというムーブメントが始まった頃です。
最初の思いはハワイへの「恩返し」
当時は、日本からいらっしゃる観光の方々を対象にしたメディアの運営をしていましたが、僕の周りにあるハワイのコミュニティのお役にもっとたてたらなあと、純粋に湧き上がる思いがありました。
日本から、何も分からずに移り住んできた自分を、すっぽりと暖かく包んで「育てて」くれたハワイに、絶対に恩返ししなくてはという強い思いがあったのです。
ハワイとは、単なる商売ネタではなく、僕にとっては、そして会社で働く全員にとっては、大切なコミュニティ。僕たちができることの中から、何か役に立てることがきっとあるに違いない。そう思っていたんですね。
日本にいたら、きっとそんな風に地域社会を見ることって、なかなかなかったかもしれないのですが、たまたま小さな島だし、たまたまよそ者として後から入ってきたし、見えやすかったのかもしれません。
やればやるほど見えてくる「貢献」の世界
そこから始めたのは、環境団体への寄付だったり、在住日本人コミュニティを応援するビジネスセミナーや交流会の開催だったりしました。今ならもうちょっと上手にやれるかもなあと、思い返すと赤面してしまいますが、いろいろな方のご支援を受けながら、地元メディアにもたくさん取り上げていただきました。
ひとたび、「この人は『貢献』に関心がある人だ」というイメージが伝わると、あれこれ、たくさんのことにお誘いをいただくようになります。
ハワイにいる、あるいはハワイを訪れるシニアの方々のハワイ体験を充実させたいと願う「ハワイシニアライフ協会」の設立と初期の活動に参加させていただけたのは、本当に素晴らしい体験でした。
まったくもってお役には立てませんでしたが、ハワイを訪れてトラブルに巻き込まれた観光のお客様をサポートする「ビジターズ・アロハ・ソサエティ・オブ・ハワイ(VASH)」に参加させていただいた時には、参画しているメンバーがすごい方ばかりだったので、その積極的な姿勢や貢献の仕方に感嘆しまくりでした。
基金を目的とするパーティなどにも呼んで頂く機会が増え、アメリカ社会に根付く、様々な貢献の形について学ぶきっかけとなりました。
アメリカでは「貢献」が当たり前の慣習
アメリカにいると、あちこちで寄付やボランティアをしている姿を見かけるので、「無条件で貢献する」ということは当たり前の慣習だと学びながら育ちます。
クリスマスになれば、スーパーやドラッグストアの前でチリンチリンと鈴の音が響きます。おなじみの募金のお願いです。レジでは、いつも何らか、1ドルや5ドルくらいの小額募金を募っています。レジでピッとバーコードを読むだけで、簡単に募金ができるので便利です。
寄付をすることが当たり前という背景には、キリスト教やユダヤ教の教会で学ぶ「10分の1税」があるかと思います。聖書の教えから始まったもので、何かで利益を得たら、その10分の1を教会に収める習わしのこと。だから、献上物、献金については、自分の利益を独り占めしないで分け与えるもの、という考え方が社会に根付いているのでしょう。
NPOは無数に存在し、公共性が認められた一部の団体は、寄付金を「税金控除」対象にすることが可能です(すべてのNPOができるわけではありません)。企業は税金に払うよりも、宣伝効果にもなる寄付をした方が得策と考えて、大きな額を動かすモチベーションになるわけです。
これは、とても度量の大きなWin-Winな政策だなと感心します。
きれいごとじゃなくて、「善きこと」にきちんとお金が集まる仕組みを政府が作って、勝手に回してもらえばいいわけです。政府の役目は、それが「善きこと」を目的に作られているかを入り口で管理し、毎年、毎年、活動内容をチェックしていけば良い。何もかもを政府がやろうなんて、所詮、無理な話なわけですからね。
きちんとしたNPOのホームページからは、とても簡単に寄付できるようになっています。営業活動もしっかりしたもので、一度寄付した団体からは、毎年、きっちりと催促がきます。彼らは彼らなりに、「事業」として本気ですから、ゴールを決めて皆で必死に取り組んでいるんですよね。
専門分野の能力を提供することで「貢献」するプロボノ
お金を出すだけではなく、時間と労働を提供するボランティアもひじょうに盛んです。NPOの多くは、そういうボランティアのおかげで成り立っていると言ってもよいでしょう。
アメリカでは、子どもの頃からボランティア活動をすることが大切であると学びます。大学へ入る時にも、過去にどんな貢献活動をしてきたのかをアピール材料として使いますし、なにしろ親の学校への参加度合いが日本とはまったく違うので、子どもはそういうのを見て育つわけです。
専門家たちの「プロボノ」ワークも一般的です。弁護士さん、会計士さん、デザイナー、ライター、カメラマン、医師、マッサージ師、エステティシャン他、ありとあらゆる職業の方々が、専門知識を活かして、支援する団体のオペレーションをサポートしています。
もちろんどんな貢献活動をしているかは、きちんと言う方が多いです。そのことで、支持している団体の宣伝にもなるわけですし、どのような団体をサポートしているかによって、その人のフィロソフィを伝えることにもなります。
貢献は、人に言わずにひっそりと、というのが日本的な美徳かもしれませんが、本当のWin-Winって何かを考えれば、別に隠す必要はないように思います。
アメリカの学校や美術館などには、寄付した人のプレートがキラキラと飾られています。◯◯記念館、と、名前をつけるところも多いですよね。後世に、貢献が伝えられ、その志が引き継がれていくのであれば、何も問題あることではないように思います。
ファンドレイズ(基金)を目的とした豪華なパーティがあると、「そんな無駄な金を使うくらいなら全額寄付すればいいのに」と批判をする人もいますが、お金集めの仕組みを知らない方の意見ですよね。お金を持った人をたくさん集めて、そこですんなり気持よくお金を出していただく仕組みを作ることで、ただ「お願い~」とやっている時の、何百倍の資金が集まっていくのです。基金が目的なのだから、その戦略、手法は目的別にたくさんあって当然です。
稲盛和夫氏から学んだ「利他の心」
2009年になって、京セラ創始者の稲盛和夫氏が主宰する経営塾「盛和塾」の勉強会に参加させていただくようになり、そこで教わったのが「利他の心」という考え方です。
利他とは、他人を利する、他人に利益を与えるということであり、利己と対比をなす言葉です。この記事で、ご本人が語っていらっしゃる言葉がわかりやすいと思うので、ぜひ参照してみてください。
⇒ 稲盛和夫が直言「伸びる人、立派になる人、いらない人」【2】
哲学的なことや自己啓発的なことを、胡散臭いものとして敬遠する人も多いかもしれませんが、盛和塾では、たくさんの人生哲学を教えていただき、人間としての軸がかなり座った感覚を持てたと感じています。まだまだですが、本当に感謝してもしきれない巡り合わせです。
稲盛氏は、企業の活動とは、すべてが社会貢献なのだとおっしゃいます。たくさんの社員を雇用することが、まず貢献。従業員サイドから見ると、なかなか分かりにくいことではありますが、給与を毎月、同じ日に、同じ額払い続けることって、簡単ではないのです。でも、社員のため、社員の家族のためにと利益を生み出すことを第一義とし、彼らの物心両面の幸せと、社会の進歩発展に貢献する、というのが、京セラのフィロソフィ。
活動の軸に利他の心があって、原理原則を常に問い直す姿勢があれば、不祥事なんてあり得ない。
盛和塾の塾生の多くは、そのフィロソフィに賛同して、自身の会社にも何らかの形で取り入れていると思います。
貢献を意識すると、人生の意味が変わっていく
最初に「貢献」を意識した時に自分の中に芽生えたのは、「使命感」のようなものでした。言い換えれば、自分は何のために存在するのか。この会社は何のために存在するのか、という存在意義です。
人生のミッションですね。
僕らは皆、そんなことを考えるきっかけもなく育つわけですが、自分の命が何のために授けられたものなのかを考えてみる時、もっともっと直接的に、社会を良くすることに関わっていきたい、と思い始めるものです。
そして、そのことが、無条件に自分を奮い立たせるし、心の芯から純粋な喜びを感じさせてくれるのです。
今は、若い人の間にも社会意識が育っている時代です。海外へボランティアに行きたいという学生さんも多いですよね。誰かに言われたわけではなく、「やりたい」という衝動に従って、とにかく動いてみるといいと思います。
クラウドファンディングなど、人を利他の心で支援するための仕組みも増えています。オンライン上で、カード決済で寄付することって、とても簡単ですが、最後のクリックを押した瞬間、心のヒダがざわざわっと揺れ、じんわりと暖かく、そして確固とした気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。
ライフコーチのクライアントにも、何か「貢献」というキーワードで自分がやりたいことはないかと尋ねるようにしています。お金と時間があったら、何をする?という質問に、自分がかつて辛かった時のことを思い出して、同じ境遇の人をサポートしたいと言い出す方々が多いです。
そして皆さん、すごく純粋な面持ちで、ハッとされます。そして、自ら感動されるんですね。「そんなことに関われたら、どれほど素敵か」と。
災害で被害にあった方々の支援も、とても素晴らしいことです。その他に、何か「自分らしい貢献」ということを、じっくりと考えてみると良いかと思います。貢献が、もっともっとパーソナルなものになっていくはずです。
ライフプランを考える時に、仕事、お金、健康、家族、教養などというキーワードをベースに作っていくのですが、その中にぜひ「貢献」「社会参加」「コミュニティ」のような項目を作ってみることをおすすめします。
あなたの人生は、きっと何かの意味があって与えられたもの。
まずは小さな寄付からスタートしてもいいし、身近な困っている人を助けるボランティアに参加しても良いでしょう。まだまだ続く長い人生を意義深いものにしていくために、ぜひ「貢献」をキーワードに考えてみてはいかがでしょう。